無幻


性描写ありですのでご注意ください。自己責任でお願いします。



思い詰めた表情の横顔を、ただ眺めていた。
いずれ話すと、本人がそう言ったのだから待っていれば良いのか、それとも促してやるのが良いのか。そう考えていたはずなのに、いつの間にかその白い頬と闇紫の髪のコントラストにただ見惚れるのみになる。
普段でさえこのありさまなのだから。
剥き出しの滑らかな肩を流れる髪や、艶やかに彩られた唇。細腰を強調する深紅のドレスのスリットからは眩しいほどに白い太腿が覗く。
こうやって、その美しさを更に際立たせるようなことをされてしまったら、視線をまるごと奪われるのは必然というものだ。
待機中の車内、運転席のバックミラー越しにその姿を眺めながら、刹那はそっと息を吐く。ここのところ、ティエリアは何か追い詰められたような眼をして考え込んでいた。白くなるほどに己の手を握り締めながら唇を噛んで思い悩む横顔を、刹那は幾度となく見ている。そのたびに声をかけようかと思ったが結局は見守ることにとどめていたのは、彼が「思い悩んで」いるがゆえだった。ただ「苦しんで」いるのではなく、自分自身に問いかけるかのように「思い悩んで」いたから。彼が自分から答えを出すのを、そして刹那に答えを求めてくるのを待とうと思った。
けれど今日は、いつもにも増して顔色が暗い気がする。張り詰めた気分でいるのだろう、その尖った雰囲気は勝気な美女、といった演出のその姿をいっそう輝かせているが、どこか危うい感じがする。出会った頃のティエリアがちょうどこんなふうだった、と思うと微笑ましい気持ちにはなるけれど。
「……予定より早く着いたようだ。二時間ほどあるが……、車内待機で大丈夫か」
「……ああ」
刹那の問いかけに俯き気味で答える様には不安とも呼べる気色が漂っていて、刹那はわずか、眉を顰めた。広い後部座席、そんなに身を縮めなくとも、と思う。
「ティエリア」
静かに名を呼ぶと、ティエリアはそろりと頭を上げた。爽やかに甘い香水が仄かに漂う。もちろん、普段は身につけていないが、その香りは不思議に彼に似合っていた。
「そっちへ行っても?」
「……?構わないが…、どうした?」
ようやく、ミラー越しに視線が合う。不思議そうに首を傾げるのが可愛くて、ふ、と微笑むと、ティエリアは一瞬どきりとしたように瞬きをした。
真新しい帽子を投げ捨てるように助手席に放り、運転席を出て後部座席の扉を開けると、ティエリアの隣に身体を滑り込ませた。ティエリアが扉が閉まる音に意味もなく竦んだりするから、刹那もまた意味もなく心配になってしまうのだ。
見上げてくるティエリアの柔らかな視線を受け止めながら、いつもとは違う彩られ方をした身体を見ずにはいられなかった。細い喉からなだらかにカーブを描く膨らみに眼をやりながら、触れてみてもいいだろうか、などとミッション待機中にはあるまじき不謹慎なことを思う。
あまり見るな、とそんなことを言うのも恥ずかしいのだろうか、ティエリアは刹那を特に咎めない。自分から志願したミッションであるから、文句も言えないと思っているのだろう。
「……言いたいことがあるならはっきり言え」
それでもついに耐え切れなくなったのか、居心地が悪そうに刹那から顔を背け、ティエリアは言った。
「綺麗だ」
「っ!?な、何を馬鹿なこと……」
「言いたいことがあるならはっきり言え、と言うから素直に言ったまでなんだが。気に入らなかったか?」
それは至極正直な気持ちだったのだが、ティエリアはそうは思わなかったらしい。目に見えて顔を赤くしながらひどく悔しそうに呟いた。
「……君が人をからかうようになるなんてな」
「からかう?」
心外だ、と刹那は肩を竦めた。化粧の施された頬にそっと触れると、ティエリアの瞳が揺らぐ。どこかおびえているようなその視線に、刹那は自制心が引きずられていくのを感じた。
「嫌だな」
「え?」
「その姿を大勢の前に晒すのは」
派手さはないが、その分バランスの良いティエリアの美しさは、間違いなく人目を惹きつけるだろう。ましてやそれが汚い欲にまみれた権力者の視線だと思うと落ち着いてなどいられない。
「心配するな。マイスターが女装して忍び込んでいるなどと誰も思わないさ」
刹那の思いを知っていて、ティエリアはわざと冗談めかして見当違いなことを言った。悪戯っぽく微笑もうとして……、上手くいかずに瞳を伏せる。泣き出しそうにさえ見えて、刹那はぐっと身体を寄せた。
「心配しないわけがない」
両手で優しく顔を包み、覗き込むようにして瞳を合わせる。
「不安そうに見える。……気の回しすぎか?」
「っ、」
はっとしたように息を詰めて、ティエリアは眼をわずか見開いた。
「刹那……、僕は……」
何か言いたげに口を開くけれど、結局そこから言葉は紡がれず、ティエリアは刹那の両手から逃れるように俯いた。
簡単にもたれかかってくれない相手であることはわかっていたから、刹那も問いただすような真似はしない。けれど、もどかしさを感じずにはいられなかった。俺は頼るには足らぬか、と何度も問いかけそうになった。彼の抱えているものを少しでも引き受けてやりたくて。傲慢な考えかもしれないが、それでも彼の胸に巣食う不安を取り除いてやりたかった。そのために今、してやれることは。
「ティエリア」
「んっ……」
抱きしめたい。
そう思った瞬間に体は動いた。いつもより艶めいている唇にキスをして、刹那は細い腰を左手で抱き寄せた。反射的に絡めてくる舌を強く吸いながら、右手をドレスのスリットに差し入れると、ティエリアの身体はビクリとはねた。
「せ、刹那っ…?」
頬と目尻を赤く色づかせて慌てているティエリアに、いっそう気持ちが煽られるのを感じた。ガーターベルトを辿るように太腿に掌を這わせ、その滑らかな感触を楽しみつつ至近距離で揺れる瞳に囁く。
「嫌か?」
「ぁ……」
何を、とはさすがに訊かれなかった。視線を泳がせ、恥ずかしそうに俯きながら、か細くティエリアは言った。
「…嫌じゃ…、ない…」





「えっ……あっ、せつなっ…!?」
人工的な胸の膨らみに手をやると、ティエリアは一瞬何をされたのかわからなかったのか、驚いて声を裏返らせた。新鮮な反応に、刹那は微笑む。持ち上げるようにして揉みながら先端をぐり、と押さえると、甘い声が零れた。
「あぁっ」
「ちゃんと感覚があるんだな…、良く出来ている」
「医療用、だか、ら…って、や、だめっ」
慣れない感覚に戸惑うように、ティエリアは身をよじらせた。引けてゆく腰を逃がさず、刹那はしっかりと抱きこんで自分の膝の上へと押し上げる。自然、ティエリアは刹那と向かい合い大きく足を広げて膝を跨いだ。
ドレスの下に入れたままだった手を、更に深く潜らせる。刹那の指先が触れた下着の感触は繊細なレースを使った、明らかな女性用だった。
「……下着まで女性用とは徹底しているな」
普段身に着けているものとは圧倒的に面積の小さなそれに、なぞるようにして触れてゆく。ティエリアがもどかしげに震えるのを感じた。
「っ…、スリット、から…ぁ…何かの拍子に、見えたら、困るって、スメラ…」
「見られてたまるか」
ティエリアの言葉を遮って低く言うと、下着の上から中心を擦りあげた。
「ひぁっ、刹那ぁっ!」
薄い布の下で、それはビクン、と反応を見せた。強弱をつけて扱けば、みるみる芯を持ち先からは蜜が溢れ出す。
「あっ、あっ、ああっ…んん…」
ティエリアは、いつも始めは恥ずかしそうに堪える甘い声を今日は随分とあっさり響かせていた。もともと感じやすい身体も、特に敏感になっているようで、いつもより興奮しているのが見て取れた。
「んぁ…ぅ…、せつ、な…これ、も、とって…っ」
腰を揺らめかせて強請る言葉の通りに、刹那は下着の端に指をかけてずらし、すっかり濡れそぼったモノを取り出した。刹那はふと、こっちは男なのにな、と思った。
「あんっ」
ぴん、と弾くと、ティエリアは震えて刹那の肩に縋り付いた。刹那の胸に、柔らかな膨らみが押し当てられる。
──両性具有、という言葉が頭に浮かぶ。そんな、幻のような、神聖な存在を抱いているのかと思うと、恐れ多い気持ちにさえなる。
「ティエリア…」
確かに彼は、神聖と呼んでもおかしくないような気がする。そう思いながら名を呼んで、顔を上げさせるとそっとキスをした。
「ん…ふ…」
キスを深くしながら、ティエリアの先走りで濡らした指を後孔に差し入れる。
「んんんっ!!」
ビクビクッ、とティエリアの身体は激しく震え、熱い息を零しながら唇を離した。感じて、悶えるその姿さえ清らかに見えて、刹那は後ろめたさに似た感情を抱いた。自分が触れていて良いものか、と。頼って欲しいなどと、そんなことすら考えていたが、実におこがましいことだったのではないか、と。
「……後ろ、もう濡れている……」
「や、いわないで…、はぁんっ」
ティエリアはもうたまらないとばかりに、また刹那の肩口に顔を埋めた。刹那は、しばらく指で後ろを掻き回し、ティエリアの腰が焦れたように揺れだしたのを見てゆっくり引き抜いた。何も言わないのに、ティエリアは心得たように自ら腰を浮かす。持ち上げられた顔をそっと覗くと。
「ティエリア…?」
その表情は驚くほど不安げに歪んでいた。
「どうした?やめるか?」
「いや、いやぁっ!」
苦しいのか、と気遣って問えば、ぶんぶんと首を振って否定する。目尻には涙が光っていて、余計に心配になったが、ティエリアは刹那のボトムをくつろげるとドレスを捲り上げて腰を落としにかかった。
「ティエリア?」
「おねが…、お願い…、して…」
声は未だ苦しそうで、心配は拭えなかったが、言われたとおり、刹那はティエリアの中に自身を埋め込んだ。
「あああっ、あぁーーーっ!!」
一際高く喘ぎ、ティエリアは刹那にしがみついた。白い両足を刹那の腰にしっかりと巻きつけ、長い髪を振り乱して快感を追っている。
「刹那…、せつ、なぁ…」
幾度も幾度も、名前を呼んで、ティエリアは涙を流した。やはり辛いのなら、と刹那が身を引き剥がそうとして肩に触れた時。
「刹那…、好き…」
壊れてしまいそうな声で、ティエリアは言った。
「好き…すき…せつな…ぁ、好き…」
ひっ、ひっ、としゃくりあげながら、繰り返される言葉が、刹那の胸に思いがけない鋭さで刺さった。
「せつな…好き……信じて……」
ああ。
不安にさせていたのだ、と思った。頼るに足らぬか、と問いかけたかった刹那の気持ちは、ティエリアにも伝わっていたのだろう。そうではないのだと、伝えるに伝えられなかったのに違いなかった。言いたくないわけではない、けれどまだ言えない…、それは刹那を頼りにしていないからでは決してない…。
「ティエリア…」
強く、抱きしめた。彼は幻のような、神聖な存在などではない。ちゃんとここに、刹那の腕の中に、確かにいる。ティエリアのぬくもりと共に、刹那はそう感じた。そしてそれは自分も同じであることを、ティエリアに伝えなければならないと思った。
ちゃんと、いる。ちゃんと…、
「好きだ」
ティエリアの瞳を正面から捉え、真っ直ぐに言った。と、ティエリアはガクガクと身体を痙攣させ、刹那は自分がきつく絞り上げられるのを感じた。
「っ、せつな…。…っあ!ああっ、あああっ!!」
「ティエリア…っ!」
思いが伝わりあったのと、熱を分け合ったのは、おそらく同時だった。





黒塗りの車の扉を、刹那はことさら恭しく開いた。すらりとした足が、上品に降り立つ。
「お手を」
「ありがとう」
悠然とした笑みは、実に優雅で美しい。先程まであんなにも乱れていたとはとても思えない。あっちはあっちで、壮絶に美しかったが、と思いながら、周囲に気付かれぬように刹那はティエリアに囁いた。
「ティエリア、好きだ」
「っ、」
息を飲みはしたが、表情に変化を見せないのはさすがと言ったところか。ただし後が怖いな、とは胸中だけにしておく。
「俺がいる。…だから」
安心して見極めて来い。世界の歪みの根源を。
「…行ってくる」
ミッション用の微笑みで、ティエリアはひっそりと言った。それはまるで幻のような笑顔で……、刹那にだけのリアルだった。





Mission,Start!





  


あとがき。読みたい方のみ反転してどうぞ。
公式でティエリア様があんな格好してくれたんだから、これはもう美味しくいただいとかなくちゃいけないだろう!!と思って妄想を膨らませたらいかがわしい方向にしかなりませんでした☆
…えー…。
申し訳ありません!!(土下座)
二期は刹ティエ!と何の違和感もなくそう受け入れたんですけれども…、うっかりするとただ傷の舐めあいになってしまう関係ですよね、これ。まぁ舐めあえばいいと思いますよ、ええ。それだけで終わらない強さを持っている二人だと思いますし。
ティエリアは、とにかく全てを背負わなければならなかった四年というものがあって、その意識を刹那が合流してからもずっと引きずっていると思います。刹那としてはもうちょっと分け与えて欲しいんだよね、四年前に比べてたくさん持てるようになったし。
まぁどちら様も描いていると言ってはおしまいなんですけれども、そういう二人の譲り合い、というか支えあっていく温かな、ときに痛みを伴う流れを書いていきたいなぁ、と思います。
…エロ描写が相変わらず下手くそなのは、もうホントすみません!!

お読みいただきましてありがとうございました!!
華夜(09.04)








SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送