盲目になれぬ恋


「もう俺がいなくても大丈夫だな」
その言葉は、とてもとても嬉しかった。天に駆け上がる権利を与えられたように感じた。彼に認められて初めて、自分は強くなったのだと実感することが出来る。けれど。
その言葉は、とてもとても悲しかった。地の底に突き落とすぞ、と宣告されたように感じた。彼が隣にいてくれないのなら、いっそ弱いままで良いと思ってしまう。でも。
「胸を張れ」
ぐい、っと背を押し出す大きな手。それがとても温かくて。





「待った」
闇にまぎれようとする彼のマントを、ユズははっし、と捕まえた。
「また僕に黙って行こうとするんだから」
ユズが睨み上げると、ゲオルグはバツの悪そうな顔で振り返った。
「見つかったな…」
「止めようとなんてしないから…、せめて知らないうちに姿を消すのはやめて」
「……悪かった」
「この前もそうやって謝ったよ、ゲオルグ。ちっとも悪いと思ってないんでしょ。…そっか、もう僕のことなんかどうでもいいんだね…」
マントの端を握り締めたまま俯くユズを、ゲオルグは困り顔で眺め、大きな手を頭に乗せた。
「そんなこと言ってないだろう。本当に悪かった」
「じゃあ、もう二度と黙って出て行かないって約束して」
再びゲオルグを見上げ、真剣な眼をしてユズは言った。ゲオルグはかすかに微笑んで大きく頷く。
「わかった。もう二度と…」
「待って」
自分から約束するように言ったくせに、ユズはゲオルグの口に手を当ててそれを阻んだ。両腕をゆっくり伸ばし、ゲオルグの首に回す。そうして背伸びをしながら彼の顔を引き寄せた。ゲオルグも自然、ユズの背中を支えるように細い躯に腕を絡ませた。
「言葉だけじゃ駄目だよ。態度で示してくれなきゃ」
そういったユズが更に伸び上がって口付けたのと、ゲオルグが引き寄せたのと、はたしてどちらが先だったのか。





「ふぁ…ん…」
ねっとりと甘く深い口付けを随分と長く味わいながら、ゲオルグはユズをどんどん裸にしてゆく。ユズはそれにうっとりと身を任せていた。
「今の服も似合っているが、王子用の衣装も良かったな」
くちゅり、と水音をさせながらようやく唇を離し、ゲオルグは言った。ユズはもう引き剥がされて床に散らばっている衣装を見下ろしながら首を傾げる。
「どうして?」
「あっちの方が脱がせやすい」
にやり、とゲオルグが笑ってみせ、ユズはあはは、と声を立てて笑う。
「でも今のやつの方が色っぽいでしょ?」
「自分で言うか?」
「ゲオルグが言ったんじゃない、この前」
「そうだったか?」
あっさりそう言うゲオルグに、ユズはしっかり抗議をしようと口を開く。が、しかし、
「あんっ」
その口から出てきたのは嬌声で。
ゲオルグはユズの胸の突起を口に含んだままにやりと笑う。ユズは少しだけ彼を睨んだけれど、すぐに綻ぶように笑った。少しでも近くに感じたくて、自分の胸に顔を埋めている男の頭を抱え込む。
「あ…、あぁ…っ」
ユズは躯を震わせながらため息のように喘いだ。ゲオルグが緩急をつけて吸い上げるたび、全身を電流が駆け巡った。しつこく舌を絡められているそこは、赤くなり、たっぷりと濡れている。
「や…、ゲオルグっ、そこばっかりヤダぁ…」
「…あぁ、すまんな、こっちにも欲しいか」
ゲオルグはわずかに顔を離してそう言うと、まだ乾いたままの尖りを指で嬲った。
「あっ、違っ、あぁん」
手と口で与えられる刺激に、ユズは身悶えする。ゲオルグの前では、自分はただの無力な少年でしかない。そのことはなぜだか、ユズに大きな安堵をもたらした。
「やぁん…、ゲオルグぅ…」
ねだるように漆黒の髪を引くと、ゲオルグはようやくゆっくりと顔を離し、指での愛撫をやめた。苦笑しながら優しくユズを見下ろす。おそらく自分は随分と情けない顔をしているのだろうとユズは思った。
「そんなに急ぐな。そんなふうに見られたら俺も歯止めが利かなくなる」
「歯止めなんかいらないよ…ゲオルグの好きにして…」
ユズは潤んだ瑠璃の瞳で切なげに見上げ、ゲオルグの手を引き寄せて自分からその太く骨ばった指を舐め始めた。
気遣いなんて、しなくていいから。もう他に何も考えられないくらいめちゃめちゃに壊して。
まだ頭に残っている理性を早く捨てたくて、ユズは瞼を閉じた。ゲオルグの手がどうなっているかなんてことは、見なくてもわかる。一本一本丹念に、たっぷりと唾液を絡ませる。充分すぎるほどに舐めてからゆっくりと口を離し目を開けると、ゲオルグは困ったような顔をしてユズを見ていた。そして、
「あっ」
ユズを激しく掻き抱いた。どくり、と心臓が跳ね上がる。
「どうなっても知らんぞ…?」
低く掠れた声で囁かれ、ユズはぞくぞくと躯を震わせた。うっとりと彼の背に腕を回し、自分もまた掠れた声で囁くように返す。

「うん…どうなったっていい…」

ゲオルグは優しくユズの足を持ち上げると、硬く閉じた蕾に、濡れた指をゆっくり挿し込んだ。
「っ…」
大丈夫だとわかっているのに、ユズはその異物感に躯を強張らせた。気遣わしげに覗き込むゲオルグに微笑んで見せ、そっと息をつく。
「ぁ…ぅ…」
指がゆっくりと深いところへ入って来ると、ユズは奥に火が灯ってくるのを感じた。頭の中はもう、彼への愛しさしか詰まっていない。
傷つけてしまうことを恐れているのだろう、そろりとした動きに焦れて、ユズは無意識のうちに自分から動き出していた。
「あ…」
そのことに気付いた途端、大きな羞恥に襲われて思わず顔を逸らす。ゲオルグはそっと微笑んでユズの額に口付ける。と同時に、中をぐるりと大きくかき回した。
「はぁんっ」
ユズは堪らずに高く声を漏らした。それからはもう激しく掻き乱され、びくびくと躯を跳ねさせるばかり。いつの間にか数を増やされた指がユズの中を急速に解きほぐし、快感の淵へと誘う。
「あ、あぁっ…、はぁあんッ、ゲオルグっ…」
「つらくないか?」
ユズがすっかり快感に酔っているのをわからないはずがないのに、ゲオルグはそう囁きかけた。ユズはただもうがくがくと頷く。
「ゲオル…っ、もう、もういい…っ!」
「あぁ、そうだな…。もう充分蕩けている」
そんな恥ずかしいことを言って聞かせるゲオルグをそっと睨むけれど、彼は微笑むばかり。その余裕さが少しだけ癪で、ユズは悪戯っぽく笑った。
「ちゃんと…、最後までしてよ、ね?」
「……まだ根に持っていたのか?」
ゲオルグが困ったように苦笑するのに、ユズは笑い声を漏らした。
二人が初めて夜を共にしたときのことだ。それからもう何度も身体を重ねているけれど、あのときのこと、そしてその数日後に彼が言ってくれたことを、ユズは鮮明に覚えている。そしてきっと、もう忘れることはないと思う。
「持ってないよ。…大丈夫、ちゃんとわかってるから…」
ゲオルグは苦笑を柔らかな微笑に変えてユズの髪をそっと撫でた。しっとりとした優しさに満ちたその愛撫に、ユズは堪らなく嬉しくなる。
「ゲオルグ…大好き…」
「ユズ」
「んっ」
蕾を解きほぐしていた指が引き抜かれ、ユズはぶるりと震えた。この次にやってくるもののことを考えると、ぞくぞくするのを止められない。
ゲオルグはユズの足を高々と持ち上げ、後腔に熱く猛ったものを押し当てた。
「いくぞ…?」
「うん…」
ユズが頷くと、ゲオルグはユズの躯をぐ、と引き寄せると同時に大きく腰を進めた。
「あぁっ、はぁあんっ!」
喉を仰け反らせ、一際高くユズは喘いだ。自分を苛む大きく熱い衝撃。けれどそれは苦しいと同時にこの上なく甘美だった。そう、こうやって壊してしまえばいい。ゲオルグがいなくても大丈夫な自分など、今はいらないから。
「あっ、あぁっ、ひあぁぁ…」
根元まで咥え込み、ユズの腰がひくついた。ゲオルグはユズの苦痛を和らげようと、気付かぬうちにユズの前を優しく扱いていた。
「あぅ…、あぁん…」
もう更なる刺激を欲しがっている浅ましい躯。けれどユズにはもう、そんなことを恥じる余裕はなかった。好き。好き。愛してる。考えているのはそんなことばかりで。
「ゲオ…っ、ぁ、ゲオルグぅ…」
「動いていいんだな?」
「あ…、んんっ、も、訊かない、で…」
ユズが苦しい息の下で途切れ途切れに答えると、ゲオルグはふ、と笑って。
「ひゃあぁっ、あぁんっ…」
ずるり、とユズの中を滑り出した。もうすでにどこが弱いのかわかっているゲオルグは、そこばかりに執拗に擦りつけてくる。
「あぁあっ、ふぁあんっ、あぁ…ッ!」
繰り返し襲い掛かる激しい快感の波に、ユズはもう声を上げて悶えることしか出来ない。
「ユズ…っ」
「はぁんっ、ゲオルグ…ッ!」





『俺はあの夜…、お前を拒みきれなくて抱いたわけじゃない。同情なんかで抱いたわけでもない。俺は…、俺の意志で、お前を抱きたいと思ったから抱いたんだ。…わかってもらえんかもしれん…。ただ、言っておきたかった。──俺は、ユズという少年を愛してしまったただの愚かな男に過ぎないのだということを』





頭の中で、あのときゲオルグが言ってくれた言葉が響く。
(僕だって本当は)
愚かなのは自分の方。
ゲオルグという男をひたすらに愛してしまったただの身の程知らずの少年。
「ゲオルグ、ゲオル…っ、も、ダメ…やぁっ、うぁ、あっ、もうダメぇ…!」
ユズの眼からは、自分でも気付かぬうちにぽろぽろと涙が零れ出ていた。ゲオルグはその頬にそっと口付け、この世で一番美しい言葉であるかのように甘く囁いた。
「ユズ…」
「ゲオルグッ!あぁっ、あっ、あぁぁぁぁーーーっ!!」
喉が枯れるほどに喘ぎながら、ユズは絶頂を迎えた。
愛してる愛してる愛してる。
そればかりを頭の中で叫び続けて。





「胸を張れ」
ぐい、っと背を押し出す大きな手。それがとても温かくて。
いつも思い知らせる。
彼だけを見ていてはいけないのだということを。




ひー、まとまってないー!
こんなのただエロが書きたかっただけだってバレバレじゃないか!(コラー!)
痛々しいほどゲオルグが好きで好きで、痛々しいほど王子が好きで好きなのです。結局全然見えてない;
ご拝読ありがとうございました。
華夜(06.08)



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