有効期限


頭がくらくらする。

考えがまとまらず、ぐるぐると胸を駆け巡る。

口調も、いつもよりゆっくりしてきたように思う。

まずいな、とカリムは思った。

二、三日前から少し体調が良くなくて危ないかな、とは思っていたのだが、どうやら本当に風邪を引いてしまったようだ。

しかし今、グレッグミンスターに戻るわけにはいかない。自分を頼ってきてくれたトリイに申し訳がない。

こんな事なら酒盛りをしようと言う誘いを断れば良かったか、と後悔しつつ、トリイに話し掛けた。

「トリイ、悪いけど、今夜はもう休ませてもらってもいいかな」

「え?カリムさん、もう飲まないんですか?つまらないなあ・・・」

「ごめん。次回は最後まで参加するから・・・」

「絶対ですよ?僕、今度こそカリムさんの酔ってる所を見るんですから!」

「あー、無理無理」

酒がなみなみと注がれたジョッキを片手に、フリックが近付いてきた。

「えー?何でー?」

「毎回同じ事を言ってカリムを最後までつき合わせて、結局は自分が先に酔いつぶれて眠っちまうだろ」

「うっ・・・だ、だから今度こそは・・・」

「はいはい。ほら、カリム、先に休むんだろ。かまわず行け」

「う、うん・・・。じゃあ、おやすみ」

「おい、カリム」

酒場を出ようとすると、呼び止められた。

ビクトールがやけに真剣みを帯びた目で見る。

「無理、しすぎるな」

「うん、わかっているよ」

笑顔で答える。ビクトールの後ろでフリックも、心配そうな顔をしている。

その隣ではトリイが何が何だかわからない、と言った顔をしていた。

(やっぱりわかっちゃったか、あの二人には。しまったな)

カリムは苦笑し、だるい体を引きずって歩き出した。





「ああ、良かった。まだ寝てなかったんだね」

カリムはぼうッ、とする頭で何とかルックの部屋へ辿り着いた。

「何か、用?」

「うん、ビクトールとフリックの忠告に背こうかと思ってね」

「・・・何の話さ」

「何でもないよ」

ふふ、と軽く笑う。しかし、笑った拍子に激しく咳き込んだ。

足元がふらつく。踏み止まったつもりだったが不覚にもがくり、と膝を付いた。

「カリム!?」

ルックが慌てて近付いて来る。

「ごめん。大丈夫だよ・・・」

ふらつきながらも立ち上がり顔を上げると、怒っているような悲しんでいるような顔をしたルックの顔とぶつかった。

「何処がっ!何処が大丈夫なんだ!?」

「うん・・・ごめん」

辛そうに顔を背けるルックを、カリムは抱きしめた。

「無理をしないって言ったろうっ・・・?」

「うん。だから・・・約束を守りに来たんだけどな」

「守れてないじゃないか・・・」

「そう・・・?でも少なくとも今は、無理をしていないよ」

「嘘だ。話すのでさえ辛いだろうに」

「ルックと話してるのに辛いわけないだろう」

「っ・・・」

頬を赤く染めたルックに、嬉しくてふふ、と笑いを洩らす。

しかし、その笑いは再び咳に変わり、抱きしめていたはずのルックに逆にすがり付いてしまう。

とっさの事にカリムの体重を支えきれず、ルックはそのまま後ろへ倒れ込んだ。

「わっ・・・」

ボフッ

倒れた先にはベッドがあった。

「図っただろ」

「まさか」

短く答え、ルックの肩に顔をうずめる。

「風邪、うつっちゃてもいいかい?」

「嫌だ」

「でも、甘えてもいい、って約束しただろう?」

「っ・・・約束どころじゃないっ・・・どうするんだ、悪化したら!」

「大丈夫だよ。風邪はうつした方が早く治るって言うだろう?」

カリムはルックの耳元に甘やかに囁き、優しく頬に口づけた。


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