かぞえ歌



いち、にぃ、さん、し、ご……。
指折り数えて、「最後」に辿り着く少し前に、気付く。数えていく行為が、記憶を辿る行為に等しいということに。気付いて少し、寂しくなって。そんな自分を悔しく思って。

彼がくれた、キスの回数──。

初めてだ、と思ったのを皮切りに、二回目、三回目、と数えていた当時の自分。それを辿る今の自分。
二人の自分が頭の中でクロスして、脳を痺れさせる。
数えることで、甘いばかりではない記憶が蘇ってくる。



「だから、というわけではないんだが……、君とのキスは最初から数えていない」
少し微笑んで、ティエリアは言った。少し微笑んでいる自分が、自分自身にも少し不思議だった。
「……そうか」
少し微笑んで、刹那は答えた。良いとも悪いとも言わず、ただ、そうか、と。
「忘れていっているわけではないが」
少し言い訳じみているだろうか、と思いながらティエリアは言った。体が微熱を帯びている。
「忘れても、構わない」
少しも冷たさを感じない口調で、刹那はしかしあっさりと言った。視線が色を帯びている。
「なぜ」
「思い出す暇など与えない。だから覚えている必要はない」
「え」
言葉を続けようとしたティエリアの唇を、刹那がぴたりと塞いだ。
「数えたくても、数えられない。……きっと」
いち、にぃ、さん、し、ご……。
雨のようにキスが降る。

ああ。

ティエリアは震える手で刹那に縋りついた。
いち、にぃ、さん、し、ご……。
もう、もう、数えられない。

脳に甘さだけが、しみてゆく。


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