繋いだ手はバニラの香り──2



初夏の爽やかさを纏った風がロックオンの髪を揺らした。それが心地よくて、眼を細める。
少しは気が晴れたようだ、とロックオンは思った。
普段、移動のほとんどは車で行うため、こうやって歩くことはめったにない。近くのベーカリーで朝食を買うだけのつもりだったが、折角だから少し足を伸ばしてみることにした。
駅に程近いところに、大きな公園がある。ロックオンはそこへ足を向けた。
公園は、この土地出身の芸術家がデザインしたという噴水を中心にして遊歩道や芝生が広がり、地域の憩いの場としていつも穏やかながらに賑わっている。今はまだ朝のうちということもあり人影はまばらだったが、犬の散歩やジョギングをしている姿がいくつかあった。
そんな中に。
(ん……?)
開店準備を始めているアイスクリームスタンドの前に設置されたベンチに、一人の少年がいた。
服装が派手だとか、絶世の美少年だとか、目立つ姿をしているわけではないのだが妙に惹きつけるものがあって、ロックオンは目を放せなくなった。
十五…、くらいだろうか。小柄だが大人びた背筋をしている。不規則にぴょこぴょこ跳ねた黒い髪の下には赤褐色の瞳が驚くほどの眼光を持っていた。
少年はまじまじと観察をするロックオンの視線には一向に気付く様子はなく、先程から前方──アイスクリームスタンド──を食い入るように見詰めていた。
(ふうん?)
食べたいけど、そうは言えない。
そんな感じかな、とロックオンは少し微笑ましい気分になる。
……けれど、誰に?
少年の近くに保護者らしき人物の姿は見えない。良く考えてみればこんな平日の朝に十五ほどの少年が一人でいる、というのは少し奇妙だった。
迷子か、家出か?と考えたが、どうもそんな感じではない。そうではなく……、そう、
「出てきたところも行くところもない」ような。
(なんだろうな…)
自分が抱いた印象に明確なビジョンを与えられずに首を傾げながら、ロックオンもアイスクリームスタンドの方に目を向けた。
改造して店舗として使用されているワゴン車は可愛らしいピンクで、周りには簡易テーブルがカラフルなパラソルを携えて用意されていた。
ちょうど開店するところのようで、人の良さそうな青年がワゴンの脇に看板を立てる。
(……へええ)
その看板の文句を読んだロックオンは、ふと思いついてスタンドに向って歩き出した。
今日の朝食はアイスクリームかな、と思うと、我ながらあまりに似合わなくて少し笑った。
少年のすぐ前を通り過ぎてスタンドに近づくと、赤褐色の眼が自分に向けられたのを視界の端で感じた。
なぜだか。
その瞬間にぞくりとした。


TO BE

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送