繋いだ手はバニラの香り──5



ラムレーズンのアイスクリームに含まれるアルコール量なんて限りなくゼロに等しいはずなのに、ロックオンは酔っているような気分だった。
「っははは!」
二人同時に鳴った腹を抱えて笑い合う。声を出して笑うなんてどれくらいぶりだろうかと思った。刹那と名乗った少年の笑い声は小さくて、聞こえるというよりは耳を掠める程度だったけれど、ロックオンは妙に華やいだ気持ちになった。
「そっか、刹那も腹減ってんのか」
刹那はこっくり頷いた。その横顔にもう笑みはなく、ロックオンは刹那が表情の変化に乏しい子なのだと知った。だからこそ、さっきの小さな笑い声を愛想笑いではないとわかって嬉しかった。
(嬉しい?)
その感想は何だかおかしい、と思ったけれどその場で深く自己追求するのはやめた。まずは朝飯だ、とロックオンは辺りを見回す。公園には、やってきたときよりも販売ワゴンが増えていた。
「んじゃ何か腹の足しになるものを……、何が喰いたい?」
「……別に、何でも……」
「んじゃ、ホットドッグでも喰うか」
ロックオンはベンチから立ち上がった。噴水の向こう側、五十メートル先くらいに大きくホットドッグのイラストが描かれたワゴンを確認する。
「すぐ買ってくるから、ちょっと待ってろよ」
そう言うとロックオンは、自分の表情を伺うように視線を上げてくる刹那の頭に手を置いて黒髪をくしゃりと撫でた。無意識に取ってしまった行動に一瞬しまった、と思ったが、刹那は特に不快になったわけではなさそうで、どこか眩しそうに眼を細めた。
もう一度笑いかけて、ロックオンはホットドッグワゴンへ向った。起床した時のささくれ立った心は嘘のように静まっていた。胸の痛みは、まだすぐに手に取れるところにあるけれど。
ふとした瞬間に、蘇る。例えば、さっきの。
(昔はよく頭を撫でてやったっけ)
朧に蘇る、家族の姿。
痛みごとその幻影を振り払うことが出来ずにぐっと飲み込んで、ロックオンは思考を別の場所に移した。刹那のことを考える。子供らしくない子に見えたが、差し出されたアイスクリームを見たときの瞳の輝きはロックオンが今までに見たどんな眼よりも美しかった。
なぜ、食べたいと思っていたわけでもないアイスクリームを買ってまで刹那に近づいたのか、自分でも不思議だった。奇妙な引力が働いた、としか言いようがない気がする。
取り留めのないことを考えつつホットドッグを二つ買い、ベンチへ戻るとそこには。
「あれ?」
刹那はいなかった。辺りをぐるりと見渡すも、それらしき姿はない。
「うーん…」
見知らぬ男に朝飯を買ってもらう、という行動を冷静に考え直して気味悪くなったのだろうか、と思ってロックオンはその考えに自分で少しへこんだ。
「しかしまぁ、当然だよな…」
物騒な世の中だ、ホットドッグ一つの見返りに何を要求されてもおかしくない。
肩を一つ竦め、とりあえず自分だけでも喰うか、と思ったところで、ロックオンの携帯電話が鳴った。


TO BE

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