繋いだ手はバニラの香り──10



始めのうち、驚いた顔でロックオンを凝視していた刹那は、次の瞬間不自然なほどロックオンと目を合わさなくなった。
公園から追われてきたと思ってるかもな、と考えてロックオンは苦笑した。もっともな反応だ、初対面であんな振る舞いをされては警戒もするだろう。
「ミスター・ストラトス、ミスター・ハプティズムの両名には本日よりこのサーシェス邸に滞在していただきます。私同様、二十四時間体制でお坊ちゃまのサポートを致しますのでご安心を」
「二十四時間体制……」
「はい。……何か不安要素がございますか?」
「いや…、そこまでする必要があるだろうかと思っただけだ。不満そうに見えたならすまない、俺はこういう扱い方をされたことがないから」
ティエリアの説明に受け答える刹那を見て、ロックオンは少し驚いた。公園で出会ったときから感じていたことだが、この子はかなり聡明だ。全く慣れない環境に放り出されたら、大抵の人間はしばらくただおろおろするだけになってしまうだろう。
生きる、という意志が強く備わっているのだろうか、と思うと少し痛ましく感じられた。
「お坊ちゃまは大切な方ですので、幾重にも念のための対策は必要なのでございます。どうぞご理解くださいますよう。では、私はミスター・ストラトスをお隣の部屋へご案内いたします。ミスター・ハプティズムはお坊ちゃまの部屋の扉外にて警護をお願いします」
「りょ、了解しました」
「後ほどお茶をお持ちいたします。では」
一礼して立ち去るティエリアに続いて、ロックオンとアレルヤは部屋を出る。すれ違いざま、ロックオンは再び刹那に微笑んだが、彼の瞳は伏せられていた。
「このミッションには追加指令が出るということだ」
扉を閉めるとティエリアは途端に低い声で二人に囁いた。
「追加指令……?」
「ただのボディーガードと側用人、家庭教師を雇うのに頭金三千万も出すのは明らかに怪しい。裏事情を調査すると部長から連絡が入っている」
部長、つまりスメラギのことである。
「とりあえず頭金もらって仕事について、事情を調べた上でさらに金になりそうな方向へ持ってくってことだろ?相変わらずガメツイ会社だよな、ウチは」
「……何か問題でも?」
「いいや」
むしろロックオンはこういう開き直った経営体制に好感を持っている。所詮、ソレスタルビーイングに依頼を持ってくるような奴等にまともな人間はいない。そういうのからはガッツリ搾り取れば良いのだ。
「詳しいことはまた機会をみて話そう。それよりも……」
ティエリアは一度言葉を切った。何事かと首をかしげると、彼はメイド姿で凛々しく仁王立ちをして二人を見据えた。
「笑いたくば遠慮せずに笑え」

TO BE

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